本文へ

2019年の正書法改訂(нови́й право́пис)

2026年10月11日

同じ単語でも、つづりが2つあります。教科書では проект、辞書では проє́кт と書かれていることがあります。2019年にウクライナ語の正書法が改訂され、いくつかの語のつづりが変わったからです。

2019年の改訂とは

2019年5月22日、ウクライナの内閣は正書法の新しい版を承認しました。文字の数や、ь を置く位置のような基本の規則は変わっていません。変わったのは、外来語のつづりと、いくつかの語形です。

変わり方は2種類あります。1つは、つづりが1つに決まって、古いつづりが使われなくなったものです。もう1つは、古いつづりと新しいつづりが、両方とも認められたものです。

2026年3月には、この正書法が国の言語の基準として改めて承認されました。このとき直されたのは章の組み立てや例で、つづりの規則は変わっていません。

初級で出会う変更

入門の範囲で目にする変更は、次の表のとおりです。§ は2019年の正書法の段落の番号です。

初級で出会う変更
2019年より前2019年の正書法種類§
проект(計画)проє́кт1つに決まった§126
фойє(ロビー)фоє́1つに決まった§126
і́род(暴君)і́род、и́род両方とも可§2
ефі́р(放送)ефі́р、ете́р両方とも可§123
ка́федра(講座)ка́федра、кате́дра両方とも可§123
Афі́ни(アテネ)Афі́ни、Ате́ни両方とも可§123
аудито́рія(講義室)аудито́рія、авдито́рія両方とも可§131
ра́дості(喜びの属格)ра́дості、ра́дости両方とも可§95
規定なしа́вторка、дире́кторка作り方を明記§32
кафе́、кіно́、метро́、ра́діо、таксі́ は変化しない同じ変更なし§140

1つに決まったつづり

外来語の中で、母音のあとに来る「イェ」の音は є で書きます。2019年の正書法 §126 と §130 がこの規則を定め、проє́кт、фоє́ を例に挙げています。改訂前の版は、проект などを е で書く例外としていました。今は є で書く形だけが正しいつづりです。

ただし、母音で終わる接頭辞のあとは е のままです。поета́пний(段階的な)は по- と ета́п(段階)に分かれるので、є にはなりません。

両方とも認められたつづり

ギリシャ語から入った語の th は、改訂前の版では、ф で書くか т で書くかが語ごとに決まっていました。2019年の正書法 §123 は、ф で書きなれた語に т の形も認めています。ефі́р と ете́р、ка́федра と кате́дра、Афі́ни と Ате́ни がその例です。міф(神話)にも міт という形があります。

ラテン語やギリシャ語の au も同じです。аудито́рія は、§131 で авдито́рія とも書けるようになりました。лауреа́т と лавреа́т、па́уза と па́вза も同じ組み合わせです。

語頭の и も、一部の語で認められました。ウクライナ語の語頭はふつう і で、改訂前の版は語頭に и を書かないとしていました。§2 は і́род と и́род のような、両方の形がある語を挙げています。

子音や -ь で終わる女性名詞(第3変化)のうち、一部の語の属格に -и の形が加わりました。-ть で終わり、その前が子音の名詞(ра́дість)と、кров、любо́в、о́сінь、сіль です。ра́дості の代わりに ра́дости、любо́ві の代わりに любо́ви とも書けます。ніч はこのなかに入らないので、属格は но́чі だけです。

女性を表す名詞

2019年の正書法 §32 は、男性名詞から女性を表す名詞を作る接尾辞を挙げています。いちばんよく使うのは -к- で、а́втор(著者)から а́вторка、дире́ктор(校長、社長)から дире́кторка ができます。студе́нтка もこの形です。

-ник や -ень で終わる語には -иц- を付けて、у́чень(生徒)から учени́ця ができます。-ець で終わる語には -ин- を付けて、краве́ць(仕立て屋)から кравчи́ня ができます。改訂前の版には、このような作り方を定めた段落がありません。

教科書とこのサイトのつづり

黒田龍之助『初級ウクライナ語文法』(2017年)と中澤英彦『ニューエクスプレス ウクライナ語』(2009年)は、2019年より前に出た本です。改訂で変わった語は、改訂前のつづりで書かれているはずです。表の左の列と照らして読んでください。

単語の確かめに使っている Wiktionary(kaikki.org のデータ)は、проє́кт を見出しにしています。проект と фойє は、規範に合わない別形として載っています。ефі́р と ете́р、аудито́рія と авдито́рія は、どちらも見出しになっています。

このサイトの記事は、2019年の正書法のつづりで書いています。両方とも認められた語は、正書法が先に挙げている形(ефі́р、ка́федра、Афі́ни、аудито́рія、ра́дості)を使っています。

日本語との違い

日本語の送り仮名にも、本則と許容があります。「行う」が本則で、「行なう」は許容です。ウクライナ語の ефі́р と ете́р も、両方とも正しいつづりです。ただし、ウクライナ語の正書法は、2つの形に本則と許容の区別を付けていません。

ロシア語を学んだ人は、проект の形に見覚えがあるはずです。ロシア語でも проект と書くからです。ウクライナ語の今のつづりは проє́кт で、ロシア語とは違います。

練習問題

正しいものを選んでください。

  1. 今の正書法で「計画」を表すつづりは( проект / проє́кт / проя́кт )です。
  2. ефі́р と ете́р は( 両方とも使える / ефі́р だけ / ете́р だけ )です。
  3. 属格に -и の形がないのは( ра́дість / ніч / сіль )です。
答え
  1. проє́кт(外来語では、母音のあとの「イェ」を є で書く)
  2. 両方とも使える(§123)
  3. ніч(属格は но́чі だけ)

参考にした資料