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ウクライナ語とロシア語の違い(украї́нська і росі́йська)

2026年10月20日

ウクライナ語とロシア語は、どちらも東スラヴ語に入る別々の言語で、同じキリル文字を使います。文字の数はどちらも33で、似た単語も多くあります。違いが出るのは、文字の一部、発音、よく使う単語の一部です。

どちらも、それぞれの正書法と辞書を持つ言語です。ウクライナ語の正書法は、2019年版(Украї́нський право́пис)が内閣の決議で承認されています。同じところと違うところは、次の順に説明しています。

同じところ

ウクライナ語もロシア語も、スラヴ語の中の東スラヴ語です。三谷『比較で読みとくスラヴ語のしくみ』は、ウクライナ語を「ロシア語ときわめて近い言語」と書いています。キリル文字で書くことと、文字の数が33で同じことは共通です。

文字の違い

文字の数は同じでも、中身が違います。

文字の違い
区分文字例
ウクライナ語にあって、ロシア語にないі ї є ґУкраї́на(ウクライナ)、Євро́па(ヨーロッパ)、ї́жа(食べ物)、ґа́ва(カラス)
ロシア語にあって、ウクライナ語にないё ы э ъёлка(クリスマスツリー)、сын(息子)、э́тот(この)、подъе́зд(建物の共用の入口)

иとщは、両方にある字ですが、同じ音ではありません。щは黒田『初級ウクライナ語文法』が、ロシア語とは違う音と書いています。иは次の「発音の違い」で扱います。

ロシア語のъにあたる働きは、ウクライナ語ではアポストロフィ(’)が受け持ちます。唇の音(б п в м ф)や р のあとで я ю є ї が来るとき、また子音で終わる接頭辞のあとに置きます。п’я́ть(5)や ім’я́(名前)がその例です。дя́кую のように、ほかの子音のあとには置きません。ロシア語にアポストロフィの使い方はありません。つづりの決まりは、正書法の第7条(§ 7)にあります。詳しくは軟音記号とアポストロフィの記事にあります。

джとдзは、ウクライナ語で2字で1つの音を表す組み合わせです。ロシア語にも джаз(ジャズ)や дзюдо́(柔道)のような外来語がありますが、ウクライナ語ではふつうの単語にも出てきます。

発音の違い

г の音

同じ字のгでも、音が違います。ロシア語のгは「グ」[g]、ウクライナ語のгは「ハ」に近い[ɦ]です。газе́та(新聞)は両方の言語で同じつづりですが、ロシア語では最初の音が「グ」、ウクライナ語では「ハ」に近くなります。のどの奥で息を出すので、日本語の「ハ」より奥で響きます。ウクライナ語のґは、ロシア語のгと同じ「グ」[g]の音を表す字です。

и と і

ウクライナ語のиは、ロシア語のыとиをまとめたような1つの母音で、ロシア語のыよりも前寄りの「イ」です。ロシア語のоやеに当たるところに、ウクライナ語でіが出る語もあります(後ろに子音が1つ続いて語が終わる場合などです)。

и と і
意味ウクライナ語ロシア語
息子синсын
チーズсирсыр
塩сільсоль
7сімсемь
彼вінон

どの語にもこの対応が当てはまるわけではありません。сон(夢)と день(日)は、2つの言語で同じ形です。

アクセントのない о

ロシア語では、アクセントのないоが弱く、「ア」に近く発音されます。окно́(窓)は、文字どおりの「オクノ」ではなく、[ɐkˈno]のように聞こえます。この現象は「ア音化」といいます。

ウクライナ語にはア音化がありません。вікно́(窓)のоは、アクセントがなくても「オ」と読みます。アクセントの位置は、アクセントの記事にあります。

語末の有声子音

ロシア語では、語末の有声子音字が、対応する無声子音として読まれます。ウクライナ語ではそうならず、書いてあるとおりに読みます。хліб(パン)のбは、ウクライナ語では「ブ」の音のままです。ロシア語の хлеб は、語末のбが「プ」に近く聞こえます。

単語の違い

次の表は、よく使う単語のうち、2つの言語で形が違う組です。意味は辞書に載っている基本の意味です。

単語の違い
意味ウクライナ語ロシア語
ありがとうдя́куюспаси́бо
どうぞ・お願いしますбудь ла́скапожа́луйста
今за́разсейча́с
とてもду́жео́чень
昨日вчо́равчера́
今日сього́днісего́дня
たくさんбага́томно́го
通りву́лицяу́лица
町・都市мі́стого́род
言語мо́ваязы́к
探すшука́тииска́ть
待つчека́тиждать
働くпрацюва́тирабо́тать

形が似ていて意味が違う語もあります。неді́ля はウクライナ語で「日曜日」、ロシア語の неде́ля は「週」です。ウクライナ語の「週」は ти́ждень で、ロシア語の「日曜日」は воскресе́нье です。

通じる範囲

2つの言語がどこまで通じ合うかについて、数字で示せる調べは多くありません。この記事が根拠にしているのは、次の2つです。

  • 三谷の本は、ウクライナ語をロシア語と「きわめて近い言語」と書いています。
  • Kunilovskaya らの2025年の調査では、ロシア語を母語とする人に、スラヴ語5言語の文を読んでもらい、線を引いた言い回し1つをロシア語に訳してもらいました。この言い回しは、意味が単語の足し算では分からないもの(例:тем не ме́нее)で、わざと難しい項目が選ばれています。ベラルーシ語とウクライナ語の項目は、ブルガリア語、チェコ語、ポーランド語より訳しやすい結果でした。ただしウクライナ語は、よく通じる項目とつまずく項目に分かれました。論文は、通じやすさは形の似ている点に気づけるかどうかと、その似ている度合いに左右されると結論しています。

この調査で分かるのは、書かれた文に出る意味の読み取りにくい言い回しを、ロシア語話者が読んで訳す場合の結果です。

練習問題

正しいものを選んでください。

  1. ウクライナ語にあって、ロシア語にない字は( ы / і / э )です。
  2. ウクライナ語のгの音は( [g] / [ɦ] / [x] )です。
  3. ウクライナ語の вікно́ のоは、アクセントがなくても( オ / ア / ウ )と読みます。
  4. ウクライナ語の неді́ля の意味は( 週 / 日曜日 / 月曜日 )です。
答え
  1. і(ほかに ї є ґ)
  2. [ɦ](ロシア語は[g])
  3. オ(ア音化がない)
  4. 日曜日(ロシア語の неде́ля は「週」)

参考にした資料

  1. 2019年の正書法改訂(нови́й право́пис)проє́кт と проект のように、本によってつづりが違う理由が分かります。
  2. 軟音記号とアポストロフィ(ь と ’)ьが子音を軟らげる働きと、’が子音と母音を分ける働きが分かります。
  3. 正書法(право́пис)ц ж ш ч щ のあとのつづりと、ь の置けない位置が分かります。
  4. アクセント(на́голос)アクセントの置き方と、ні́とнеの違い、母音が変わらないことが分かります。